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執筆者の写真roco

この世界を選んだ君へ

『この世界を選んだ君へ』

(The朗読会2『この世界を選んだ君たちへ』改変)


()…ト書


※語尾や一人称の変更などしてもらって構いません。自然な自分で語れる読み方をしてください。



(優しい呟きから物語は始まる)


なにも間違ってないよ


 (花の音が聞こえる)


友人が、次の日ふと、いなくなる

まるで幻想でも見ていたのかと思うほど、

そのうち跡形もなく消えてしまう


花がつまれたあとのように


そういうことが普通に起こるのが"画面の向こうで繋がる"ということだ



画面のこちら側で毎日懸命に生きることにふと疲れた時この世界を知った


そこで私はもうひとりの自分になった


日常の事や好きな事を話しているから

私だということに変わりは無いのだけれど

でも少しいつもの私より輝いていた



たくさんの人がここで生きることを楽しんでいた

大多数の他人という意味では、

駅や街中ですれ違う人達と同じような存在なのに

ただ繋がれる可能性があると言うだけで、

肩がぶつかった朝の他人と比べて、

もっと優しくて、

もっと人間味があって、

もっと暖かい存在である気がした


そういう不思議な世界だった


だけどもちろん、

そんな都合のいい世界はない

そんな綺麗な人間ばかりではない


ちゃんとそこを歩いてみればきちんと肩はぶつかった

自分の小ささを知って焦燥感にかられた

通り魔のように言葉を振り回す人もいた


現実となんら変わりない



ただ大きく違うのは

ぷつりと

消えることができる、ということだ


この世界に来た時と同じように人差し指一本で

この世界から姿を消すことができる


まるで花をつむように

少しの根は残れども

限りなくゼロに戻ることができる


そういう切り札を

一輪の花を

いつも心に持ちながら

私たちはこの世界を歩いている



この世界を知らない人は時々私たちを馬鹿にする


現実から離れたところで

身の程知らずな花を咲かせて

愚かなことをしている


そんなふうに思うらしい


だけどちょっと違う

この世界も現実だ

あなたと同じように息苦しい今を生きている

何ら変わりない人達と現実を語らう場所だ

何ら変わりない人達と夢を追いかける場所だ


咲かせている花は現実とは違う

たくさんたくさん着飾っている

だけど根っこは、

根っこは間違いなく、

同じ


それを知ってるから私はいまここにいる

そして君も同じことを知っているはずだね



意味もわからず傷つけられたこと

なりたい自分になれなくて苦しくなったこと

小さな言葉の棘が手のひらに刺さって、

何をするにもそれが気になって、

「あぁ、こんなことなら」

そんなふうに部屋の天井を仰いだこと、


君にもきっとあったよね


それでも、

二時間を短いと思った楽しい時間があったから

画面の前で思わず声を出して笑ったことがあったから

布団にくるまり花の声で眠り落ちたことがあったから

仕事でも学校でもないこの場所でひとつのものを作り上げたことがあったから

ひとりの部屋でひとりぼっちじゃない

そういう記憶がたくさんあったから


その花をつまなかった

そうでしょう?



人は不幸になるために生まれてくるわけじゃない

幸せになるためにうまれてくる


どんなに苦しいことがあっても

目は美しいものを映つそうとして

鼻は好きな香りを嗅ぎ分けて

口は美味しいものを求めて

足は好きな人の元へ向かい

手は温もりを欲している


根元でこんなにも幸せを探している


だからきっと大丈夫


幸せを探してここに辿り着いたから



あの日あの時、この世界をのぞいてくれてよかった

私や君の人差し指がここを選んでくれてよかった


だって、こうして耳をすませてくれる君がいて

懸命に声を届けたいと思ってる私がいる


幸せといわずなんて言う?


ねぇ、今日まで切り札を切らず、

その花を咲かせてくれてありがとう

いつかその花をつんでもいいよ

また種を植えてもいいよ


なにも間違ってないよ


(花の音が凛と響く)


end.


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