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執筆者の写真roco

また、月はのぼるから(本番ver.)

企画『月が綺麗ですね』書き下ろし


Spoonで上演した作品の台本のため、定期の指示と歌の指示も入っております。

定期なし歌なしで読んでいただいても、もちろんかまいません。

歌をいれる場合は著作権等、充分気をつけてください。




CAST

羽美(海月)

暖良(トキワ)

トキワ(回想)

挿入歌 すずめ/RADWIMPS




  ○定期指示


 目覚まし時計がなり、それを止める

 ベットの中でもぞもぞと動く音

 LINEの通知音のような音とそれに返信するタップ音


 ○トキワ『おはよう、海月』

 ○トキワ『・・・じゃなくて、うみ(笑)』

 ○海月 『おはよう、あたら(笑)』

 ○海月 『昨日は、ありがとう』

 ○トキワ『調子はどう?』

 ○海月 『うん、大丈夫、今日もー』


二人 『また月はのぼるから』


 すずめの冒頭を歌う羽美


トキワ 「素敵な歌声ですね」


うみ  『それが、トキワがくれた最初のコメントだった』


 電車の音、アナウンスの音、車の音、クラクション、足音、その中でドサリと人が座り込む音がする


 周りの声『え、座ってんじゃん』『体調悪いのかな?』『酔ってんじゃね?』など聞こえる

 暖良気がついて駆け寄る

 羽美、人混みに酔って座り込んでいる


羽美 「(ため息)人、多すぎ・・・」

暖良 「大丈夫?」

羽美 「え」

暖良 「顔色悪いね、立てる?」

羽美 「あ、大丈夫、です」

暖良 「無理しないで、ちょっと移動しよう」

羽美 「え、あの、」 

暖良 「ここ、人が多すぎるし。良くないよ」

羽美 「いや、待ち合わせしてて!」

暖良 「あ、うん、大丈夫だよ、会えたから」

羽美 「え」

暖良 「トキワです。はじめまして、海月」

羽美 「トキワ?」

暖良 「行こう」


 二人、街中を歩く


羽美 『トキワだと名乗った男性に左腕をひかれながら、私は私の知っているトキワのことを思い出していた』


トキワ『こんばんは、海月。今日はどうしたの?』○


羽美 『トキワは私のリスナーですごく優しい子だった。ダメな私の話をいつもそっと聞いてくれる』


海月 『ねぇ、今時間ある?』○

トキワ『うん、どうした?』○


羽美 『いつしか配信以外でも連絡を取るようになって』


トキワ『海月、無理しないで』○


羽美 『どんどんトキワを好きになって、』


トキワ『ねぇ、今度会おうよ』○

トキワ『ほっとけない』○


羽美 『トキワなら私のことを受け入れてくれるかも、そう思った』


海月 『うん、あたしも会いたい』○

海月 『ちょっと怖いけど』○


羽美 『満員電車にも耐えられない、自分を磨く余裕もない・・・そういうダメな自分をトキワに許してもらうことを期待していた』


トキワ『どんな海月も受け入れるよ』○

トキワ『私のことも、引かないでね?』○


羽美 『醜い私を、私の傷を、許して欲しかった』


 氷の音が響いて場所は喫茶店にうつる


暖良 「・・・びっくりしたよね」

羽美 「え?」

暖良 「俺のこと、女だと思ってたでしょ」

羽美 「・・・でも、女だなんて言ったことなかった・・・よね・・・?」

暖良 「言ってないけど・・・訂正もしなかったから・・・一度でいいからちゃんと会いたかったんだけど、言ったら会ってくれないかなって」

羽美 「なるほど」

暖良 「怒ってる?」

羽美 「怒ってない怒ってない!」

暖良 「まぁ、海月は怒ってても怒ってるって言えないタイプだよね」

羽美 「う、」

暖良 「図星だね?」

羽美 「図星だけど・・・ほんとに今は怒ってないから!」

暖良 「ふっははっ海月だ」

羽美 「もう・・・(小さく笑いながら)」

暖良 「ちゃんとトキワだってわかってくれた?」

羽美 「うん、なんか、はじめて会った時のこと思い出した」

暖良 「深夜枠の時の?」

羽美 「そう、初めましてだったのにトキワすごい話しやすくて・・・」 

暖良 「暖良」

羽美 「え」

暖良 「名前、あたらって言うんだ。そう、呼んで」

羽美 「すぐ、教えるんだね」

暖良 「あーなんかさ・・・自分の名前恋しくなることない?ずっとアプリに浸ってるとさ・・・あ、海月は教えなくていいからね」

羽美 「羽美」

暖良 「え」

羽美 「羽に美しいで羽美。その感覚わかるから・・・あたしも羽美って呼んで」

暖良 「・・・うん、羽美」

羽美 「なんか、変な感じ」

暖良 「よし、それじゃあ、羽美!ここからはいつものノリで話そう!」(この台詞からフェードアウト)

羽美 「ははっいつもと変わんない」

 

 時計の針がゆっくり進む

 時刻は夜。帰り道。

 二人の足音


羽美 「あー!楽しかったー!毎日話聞いてもらってたから、はじめて会ったのにすごい話わかってくれるし、馬鹿な話もすぐできるし、最高だった」

暖良 「・・・明日からも頑張れそう?」

羽美 「ん?・・・あぁ、そうだね・・・頑張んないとね」

暖良 「あーちがうな、頑張って欲しいわけじゃないんだけど・・・」

羽美 「え?なにそれ」

暖良 「無理しないでほしいなぁって」

羽美 「・・・ありがとう」

暖良 「わかってる?本当に心配してるんだよ」

羽美 「わかってるよ!ありがとうー!」

暖良 「・・・ねぇ、羽美/

羽美 /あ!」

暖良 「え?」

羽美 「満月だよ!ね、綺麗だね」

暖良 「・・・夏目漱石の愛の告白だ?」

羽美 「ちが、私はそんな、」

暖良 「わかってるよ」

羽美 「もう・・・」

暖良 「・・・ねぇ、左腕、見せて」

羽美 「え・・・なに?急に」

暖良 「さっきちらっと見えたから、隠さなくてもいいよ」

羽美 「・・・」


 暖良、羽美の左腕を優しく持ち袖をめくる

 そこには自分でつけた小さな切り傷がある


暖良 「いつ切ったの」

羽美 「いつ、だったかな・・・?大丈夫!死んだりしないから!ごめんね、見えないようにしてたつもりなんだけど、気持ち悪いよね!」

暖良 「気持ち悪いとかじゃないから」

羽美 「あ・・・うん・・・」

暖良 「(息を吐く)夏目漱石はさ、」

羽美 「え」

暖良 「"ILoveYou"を"愛してる"って訳した生徒に、"日本人はそんな事言わない、月が綺麗ですねとでも訳しておきなさい"的なことを言ったんだよね、確か」

羽美 「そう、なんだ」

暖良 「日本人ははっきり物事を言わないことがあるってことなんだと思うんだけど・・・羽美さ、メッセージ送ってくる時、よく『ねぇ、今時間ある?』って最初に言うでしょ?」

羽美 「あー言うね、あたし」

暖良 「俺にはね、あれ、『助けて』って言ってるように、聞こえたんだよ」

羽美 「・・・」

暖良 「月が綺麗だって言ったね?」

羽美 「うん」

暖良 「そう思うのは、君が一生懸命生きてるからだよ。一生懸命生きてるから、ふと見上げた月を綺麗って言えるんだよ」

羽美 「(無理に笑いながら)そうかな」

暖良 「ねぇ、今夜は綺麗な満月だけど、月はそのうち欠けていくよね。その時の月は醜い?」

羽美 「醜いってことは無いんじゃない・・・?」

暖良 「そうだよね。別にちょっと欠けたからって醜くいとはならないよね。細くても、新月でも醜いなんて言わないよね」

羽美 「そうだね」

暖良 「羽美?同じだよ。君も同じ」

羽美 「え」

暖良 「欠けたから、失敗したから、ちょっとダメだから・・・だからなに?毎日懸命に生きてて、月を愛でる心があって・・・これ以上何がいるって言うの。君はまた満ちるし、また欠ける。それが君で、そんな君だから俺は、」

羽美 「(小さく泣き出す)」

暖良 「・・・俺、喋り過ぎだね。羽美はうるさいの、嫌いなのに」

羽美 「・・・違う、うるさいとかじゃなくて・・・ごめん、上手く言えない」

暖良 「・・・じゃあ、うるさいついでにもうひとつ聞いてくれる?」

羽美 「なに?」

暖良 「月が綺麗ですね」(月を見ている)

羽美 「え」

暖良 「月が、綺麗ですね」(羽美を見ている)

羽美 「・・・」

暖良 「返事、聞かせて」

羽美 「・・・あ、明日も、」

暖良 「え?」

羽美 「明日も、綺麗かな?」

暖良 「(小さく笑う)大丈夫、羽美が羽美をやめない限り」


暖良 「また月はのぼるから」

羽美 「(小さく笑う)・・・うん、そうだね」


エンディングすずめが流れる

 羽美の小さく笑う息の音とすずめ冒頭歌い出しの吐息が重なるようにできると良い



END

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