初めて死体を見たのは18歳の時、恐ろしいよりも美しいと感じた。
次の瞬間考えていたのは『この死体は何処へ行くのだろう?』という事だった。
父の身体だったそれは、当たり前だがぴくりとも動かず、そこにただじっとしていた。
もうこの身体はどこにもいけない。
ひとりでどこへもいけやしない。
母と納棺師の手でせっせと綺麗にされて、父は大事に火葬場まで運ばれた。
生きているものが運ばなければ、
生きているものが選ばなければ、
この身体はただここで朽ちていく。
その時、思ったんだ。
相手を一番自由にできるのは死んだ時そばにいた人だと。
その話を君にした時のこと、今でも覚えてるよ。
「怖いこと考えるなぁ」
「怖いかなぁ?」
「私のこと殺さないでね?」
「殺さないよ」
「えー本当?殺しそうなくらい本気ではなしてたよ?」
僕のことをなんだと思ってるのか。
君は眉間に皺を寄せてた。
「殺さないけど、君の死体は僕が最後までお世話したい」
「・・・なにそれ?やっぱり怖い話?」
「違うよ。結婚して欲しいってはなし」
君は目を大きく見開いた。
そうしてだんだん泣きそうになって、でも一生懸命笑って、やっぱりぽろぽろ涙を流してた。
「うん、いいよ」
あれからもう何年がたっただろう。
今、君が僕を前にしてあの時と同じような顔をした。
もうひとりじゃどこにもいけない僕を見て、だんだん泣きそうになって、でも一生懸命に笑って、やっぱりぽろぽろ涙を流した。
「美しいってこういう時使うのね・・・本当、あなたの言っていた通り」
綺麗に死ねて良かったよ。
「まったく、私のお世話、誰がするのよ」
だって、君たちに恐ろしいと思われる最後は嫌だからね。
「ぼくがするよ。おかあさんがうごけなくなったら、ぼくがおせわしてあげる」
あぁ、もう大丈夫。
あの日の僕がここにいる。
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