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執筆者の写真roco

まだ、ここ





「ねぇ、美嘉って『マダココ』やってたっけ?」

隣でいかにも女子高生という具合に短く折られたスカートをひるがえしながら友人が私に問いかけた。

「やってるよー」

『マダココ』とは、最近女子高生を中心に流行っているコミュニケーションアプリだ。

LINEのようなトーク画面が基本の形で、『フレンド』同士でそこに風景の写真を投稿しあうアプリである。LINEと違うのはこの『フレンド』というのはふつうの友達ではなく、アプリ内で知り合う見ず知らずの『フレンド』であるということと、

「あれさ、本当に出会えたりするの?」

「いやぁ、会えないでしょ、さすがに」

LINEと違ってこのアプリには最終目的がある。

送られた画像をもとにして、そのいわば架空とも言えそうな『フレンド』と本当に出会うこと、それが最終目的である。

キャッチコピーは「いつか会う運命の人に届ける、私の居場所。『マダココ』」。

「なかなか、お洒落なキャッチコピーだよね」

「そうかなぁ?」

「ねぇ、やってるんだよね?さっきから反応悪くない?」

きゃぴきゃぴと彼女はなにがおかしいのか笑いながら私を見る。

「いや、あたしはすぐやめるつもりだったんだけどさ、同じ市内の人でめっちゃいい写真とる男の人いてさ。今でも毎日写真送りあってて、その人の写真見るのが目当てって感じするよね」

最初の数日でやめると思っていた自分が1ヶ月たった今でもちゃんと毎日写真を送っているのは、ケイさんというフレンドとのやり取りがあるからだ。

ケイさんの写真はどれもとても綺麗だし、自分が住む場所から電車で行ける場所のものも多かったので毎日見ていて飽きなかった。

「市内なら頑張れば会えるじゃん!」

友人はいよいよテンションを上げて跳ねるような勢いで私に言った。

「男の人でしょ?ワクワクする!」

彼女が楽しそうなところ申し訳ないが、私は一切ケイさんと会おうなどと思ってない。

どこかにいるけど、私にとってはほとんど架空の人物だ。そしてそれだから、いいのだ。

そういう気楽な関係がいいのだ。

まぁ、そんな話を彼女にしたところで納得はしないだろう。

「よし!じゃあ、今日はその事について詳しく話そう!!あとで、マック集合ね!!」

あれよあれよという間に放課後の予定が決まって、私達はいつもの曲がり角で別れた。

別れてすぐスマホを取り出す。いつからか、人と別れたあとはスマホをチェックするのが癖づいている。

「お、」

今話題に出ていたケイさんからの通知に思わず声が出た。

『まだ、ここ』

マダココは、『まだ、ここ』というトークと画像というワンセットしか送信出来ない。

ケイさんから今日も、画像が送られてきた。

「うそ!」

ケイさんからの写真は自宅から十分ほどの最寄り駅のものだった。

日頃から近い近いとは思っていたが、まさかこんな近くを撮ってくれるなんて。

「今日の写真もすごく綺麗…」

夕日を背にした最寄り駅のシルエットがいつも通る場所とは思えないほど綺麗だった。

なにかお返しがしたかったが写真のストックがなかったので周りを見渡して景色を探す。

なかなかいい物が見つからないまま家の前まで来ると、ふと電信柱の下の小さな花が目に入った。

「これにしよ」

電信柱もあえてある程度写しながら自分の美的感覚を研ぎ澄まして一枚をとる。

「まだ、ここ、と」

ケイさんにいつも通り送り返してやっと家に入って友人に会いにいく支度をはじめる。

するとすぐにスマホから通知音が鳴った。

『まだ、ここ』

さっそくのケイさんからの返信だ。こんなに早いのは珍しい。

そう思いながら開けば今度はさっき友人と別れた曲がり角の写真だった。

「いや、ほんと近すぎなんだけど...」

なんだか友人が言うようにワクワクしてきた。

「いつか会う運命の人に届ける、私の居場所⋯.」

思わずアプリのキャッチコピーを声に出す。

私の思考を止めるように、また通知音が鳴る。

『まだ、ここ』

ケイさんからまた写真が届いた。さっきより少し家に近づいている。

会えたら、どうしよう。

どんな人だろう。

…運命の人なんだろうか。

「そんな、バカな」

はやる気持ちをおさえながら家を出る準備をしようと、気を取り直した瞬間、また、スマホが鳴った。

『まだ、ここ』

「え、」

ケイさんからだった。

さっきよりまた、家に近づいている。

でもここで急におかしいことに気がついた。

自分が住んでいるこの地域は家が立ち並ぶ住宅街だ。

つまり道は入り組んでいる。

普通、まぐれだけで、こんなに着実に家に近づけるだろうか。


『まだ、ここ』


また届いたそれは、やはりさっきより近い。

「これ、もしかして、やばい…?」

心臓あたりがヒヤリとした。

嫌な予感がして、トークを振り返り自分がさっき送った写真を見て、今度は心臓が本当に凍りそうになった。

「あ、」

花を目立たせるために写真に写した電信柱のその中腹に、小さな鉄の板がついている。


“〇〇町三-一四”

住所だ。


『まだ、ここ』


次にケイさんから送られてきたのは何も綺麗じゃない電信柱の写真だった。


“〇〇町三-一三”


確実に近づいている。


『まだ、ここ』


次に送られてきた写真を見て、息を飲んで、思わずスマホを机の上に落としてしまった。

ケイさんから送られてきたのはさっきの花にピントを合わせて下から除くように家を撮っている写真だった。

家の2階、ピンク色のカーテンの隙間からスマホを見ている私がぼんやり写っている。

目の前に同じ色のカーテンがあって、それがまた鼓動を早くする。


どうしよう、どうしよう、どうしよう、と頭がうまく回らない。


回らない頭の片隅でまた、嫌なことに思い当たった。


「私、鍵、閉めたっけ…?」


聞き覚えのあるガチャりという音が玄関から聞こえた。

怖くて部屋のドアの方を見ることが出来ない。

たまにギシリと音を立てて、確実に誰かが階段をのぼる音が聞こえる。

そしてすぐ、廊下を歩く音がする。


2階の窓から飛び降りることはできるかな?無理かな?


焦りで鼓動がうるさい中でそんな考えが浮かんでは消え、結局身体は動かない。

 

机の前に立ち尽くしたままでいると、スマホが次の通知をつげる。

机の上のスマホは勝手に画面を明るくして送られきたものを表示する。

「あっ…」

いつも2次元だと思っていた画像には、制服をきた女の子が情けなく立っていた。


「もう、ここにいるよ」






★タイトル『まだ、ここ』 ★朗読時間:約10分 ★ひとこと: 世にも奇妙な物語、みたいになってしまいましたね。夏なので怖い話(*ˊ˘ˋ*)。♪:*°

ノリノリで読んでいくと多分後半、早くなると思います。私はなりそうで、ヒヤヒヤします。勢いつけつつも、突っ走らないように頑張ろうね…お互い…(笑)



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