ある朝のことです。
車がやっと一台通れそうな細い道の端っこ、住宅街から漏れ出す少しの日を浴びて、一輪の花が咲きました。
アスファルトの合間に咲いたその花は、誰もが名前を知る立派な花でした。
でも、最初にその花を見つけたのは何も知らない女の子でした。
女の子はその花に近寄って思わず笑顔になりながら呟きました。
「赤くて大きい綺麗なお花…こんな所に咲いてるけど、雑草かな?」
花はその言葉を聞いていました。
花は、女の子が笑顔で自分に言った「ザッソウ」という言葉が、とても素敵で特別なものに感じました。
その日から花は自分のことを「ザッソウ」と名付けました。
ある時、花のもとに芋虫がやってきて言いました。
「君の名前はなんていうの?」
「私はね、ザッソウっていうの」
「なーんだ、雑草か。大層な花をつけてるから、少し臆病になってしまったけど、雑草なら少しだけ葉っぱを食べさせてもらうよ」
花は痛いのは嫌なので断りましたが、芋虫は気にせず近寄ってきます。
その時です。
「いてっ」
芋虫が小さく丸くなりました。
花の棘が刺さったのです。
「嘘つきめ。こんな凶暴な棘を持って雑草なわけがない」
芋虫は花のことを強くにらみながら去っていきました。
花は自分の葉っぱを傷つけられずに安心しましたが、嘘つきと言われて心が少しチクリとしました。
ある時、今度は蜂がやってきて花に言いました。
「ねぇ、君、名前はあるかい?」
「私の名前は、ザッソウよ」
答えた花に蜂は少し頭を抱えました。
「おかしいなぁ」
「なにがおかしいの?」
「こんなにいい香りがするのに、雑草なわけないと思うんだけど…まぁ、いいか!少し君の蜜を貰っていいかな?」
「痛い?」
「痛くしないよ。それに君の仲間に届けて、君の仲間を増やす手伝いもするよ」
それはとても素敵だと思った花は喜んで蜜を蜂にあげました。
「ありがとう。また来るよ」
花は自分の仲間が増えることが楽しみで仕方ありませんでした。
ある時、もう日が沈みかけている時、女の人と男の人が花を見つけて言いました。
「ねぇ、見て、これ薔薇じゃないかしら?」
「あぁ、本当だ。刺があるね、きっと薔薇に違いないよ」
「すごいわね、こんなところに…とっても立派だし、それにいい香り。近くのお庭に咲いていたりするのかしら」
ふたりは何かを納得して花の前から去っていきましたが、花は、わけがわからないと思いました。
だって花はバラなんて名前じゃありません。ザッソウです。
でも、刺があると、芋虫も言っていました。
良い香りがする、と蜂が言っていました。
赤くて大きいと、女の子も言っていました。
花は、自分がザッソウという名前でいていいのかわからなくなりました。
悩んでいる花のもとにあの時の蜂がやって来ました。
「やぁ、ザッソウさん。こんにちは」
「こんにちは。でも、私はザッソウかわからなくなっちゃった」
「どうしたの?」
蜂は落ち込んでいる花を心配して話を聞いてくれました。
話を聞いた蜂は「今日も蜜を少し貰うね」と言って、蜜をペロリと舐めました。
そして、「うん、やっぱりね」と頷きました。
「なにかわかったの?わたし、ザッソウじゃないの?」
自分が何者かわからないザッソウは不安でいっぱいになって言いました。
「あのね、ザッソウさん…じゃなくて、今はお花さん、と呼ぼうかな?あのね、お花さん、君はきっとみんなの言う通りバラという花だと思う」
「そうなのね…」
「でもね、俺は色んなバラの蜜をなめたけれど、君はどのバラとも違う味がするんだよ」
「え?」と、花は驚きました。
自分の蜜の味など考えたこともなかったからです。
「だからね、君は特別な一輪しかない花だよ。だから君は、君に自分で名前をつけていいと思うんだ。ねぇ、君は、バラって名前とザッソウって名前、どっちがいい?」
花は悩みました。
答えられないでいる花の前に、ちょうどあの時の女の子が通りかかりました。
「あ!今日もまだ綺麗に咲いてる…!」
女の子は小さく呟くと、花が最初に目覚めたあの時と同じ笑顔で笑ってくれました。
そして、花は決めました。
それから、花の元にはいろんな虫や動物や人がやってきました。
言葉が通じないこともあります。
花はただの花でしかありませんからね。
それでも花は自分を見てくれたもの、全員に凛として言い続けました。
「わたしのなまえはザッソウ。とっても素敵ななまえでしょ?」
★タイトル『わたしのなまえ』
★朗読時間:約8分
★ひとこと:
絵本っぽくをイメージして書きました。朗読するときはやさしくゆっくり読むといいかな、と思います。
最後の台詞に「あなたのなまえは?」と付け足して、リスナーさんのなまえの由来などを聞いてお話をするのもいいな、と想像したりしました( *˙ ˙* )💭
よろしければ、お試しください(´˘`*)
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