あれ?
もしかして、まだ起きてるんですか?
…さては、眠れないんですか?
それは困ったね。
君はちゃんと休まないと。
そうだ、じゃあ、いきなりですが、
少しだけ私と散歩をしませんか?
本当に、いきなりなんだと、思ったかな。
散歩と言ってもね、私が今から言うことを君にちょっと想像してもらうだけです。
図々しく隣を歩いたりはしないし、
君が嫌がることはさせません。
だから少し、君の時間をもらって、私の声を聞いてくれませんか?
もしも許してくれるなら、ゆっくり目を閉じて。
私の声に集中してみてください。
君を外に連れ出しますね。
想像してみましょうか。
君は今、道を歩いています。
ただ、ただ、歩いています。
みぎ、ひだり、みぎ、ひだり、
心地よいテンポを刻んで歩いています。
まえ、うしろ、まえ、うしろ、
風を少し切って腕を動かしています。
手には何も持っていません。
かばんも、スマホも、持っていません。
でも、着てる洋服はとびきりです。
お気に入りで、ここぞという時に着る、
君の一番好きな服。
着れましたか?
君の一番好きな服。
うん、似合ってます。
君はこの道を知っています。
君の一番好きな道です。
空が広く見える道かもしれないし、
小さい頃の思い出がある道かもしれないし、
毎朝毎晩通る四季を知った家路かもしれないし、
たった一度行ったあの旅行先かもしれない。
君の一番好きな道です。
歩けそうですか?
君の一番好きな道。
君が一番歩きたいと思う道を、歩きたいはやさで歩いてみて。
さて、周りには何が見えますか?
木々はありますか?
花は咲いていますか?
高いビルはありますか?
それか小さな一軒家でしょうか?
公園が見えるかもしれないし、
畑や田んぼが見えるかもしれない。
周りの景色はどんな色をしてますか?
朝なのか、昼なのか、夜なのか、
それによっても変わるよね。
暖かい色はある?
寒い色はある?
優しい色とか、
強い色とか、
いろんな色、はっきり見えてきましたか?
世界っていろんな色で出来てるね。
自分も景色もよく見えるようになったなら、
少し立ち止まってみましょうか。
そしたら今から私が「せーの」と声をかけるから、
同時に後ろを振り向いて見ましょうか。
振り向く瞬間、
今まで歩いてきた道も一気に色づいていくイメージをもって。
振り向いたあなたがスタート地点で、
そこから一気に世界が広がるイメージ。
出来そうですか?
あなたが歩いた素敵な道、
きちんと描けそうですか?
それじゃあ、行きますよ。
せーの。
ねぇ、とても、綺麗ですね。
どれくらい想像出来ましたか?
はっきり色付いた人もいるだろうし、
思ったよりぼやけた人もいるかもしれないですね。
来た道と同じように、
これから行く道だって、
ハッキリ見える人もいれば、
ボヤけてる人もいるでしょう。
でもね、それでいいんですよ。
過去も未来も人それぞれ。
「あの時」を強く思い出せなくなってもいいんです。
「いつか」がはっきり想像できなくてもいいんです。
今、お気に入りに包まれている君がここにいる。
それだけでいい。
さぁ、不安はいなくなりました。
安心して、大好きな道を歩いていきましょう。
ねぇ、大切な君。
おやすみなさい。
★タイトル『君が歩く、そのための言葉たち』 ★朗読時間:約6分 ★ひとこと:
何となく道を歩いていた時に『このなんでもない道もここにしかない特別な景色なんだよな』と思ったことと、とある寝落ち配信者様の声を聞いていて『優しい声で寝る前にお話をしてもらうならどんなのがいいかなぁ』と想像した結果の作品です。
是非大切な誰かを寝かせてあげてください。
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