ここではない、わたしたちが行くことができない、そんな世界のおはなしです。
そこには、ふたつの国がありました。
朝の国と、夜の国といいます。
大きく長い島の中にふたつの国はあります。
島を上からみると、まるで巨大なヘビが2匹はっているかのような、ぐにゃぐにゃとゆがんだ形をして国がわかれていました。
ですから、国の上のはしから、下のはしまで行くのは時間がかかりますが、ふたつの国を行き来することはむずかしいことではありませんでした。
朝の国の人たちはよくはたらく人たちでした。
この国の人は6時にきっかり目が覚めて、22時にきっかり夢のなか。
おきてる時間は、そうじやせんたくやりょうりはもちろん、おべんきょうにおしごとに、あそびもきっちり忘れず、時には夜の国までお手伝いにも行きます。
でもね、この人たち、決して、せかせかはたらいているのではありません。
決して、いやいやはたらいているのではありません。
とくべつにえらい人たちでもありません。
この国の人たちは、「たくさんはたらけることが楽しい」と、そういうところがあるだけなのでした。
夜の国の人たちはよくねむる人たちでした。
この国の人は、いつでもどこでも大あくび、ひまさえあれば夢のなか。
おきてる時間に、そうじとせんたく、少しのごはんを食べて、朝の国の人にたすけてもらいながらねむくなるまでちょっとおしごと、それとあそび。
でもね、この人たち、決して、なまけものじゃありません。
決して、じぶんかってじゃありません。
とくべつにわるい人たちでもありません。
この国の人たちは、「たくさんねむれることがうれしい」と、そういうところがあるだけなのでした。
朝の国の人たちも、夜の国の人たちも、からだはじょうぶでとても元気です。
でも、朝の国の人たちも、夜の国の人たちも、こころのなかでなやむこともあります。
どちらの国の人たちも、同じようによろこび、笑います。
どちらの国の人たちも、同じようにかなしみ、泣きます。
だから、ふたつの国の人たちはとても仲が良いのです。
でも、国はひとつにはならず、ずっとふたつ。
なぜなら、おきる時間とねる時間、そしていちばんしたいことがちがうから。
はたらきまわっている人がいたら落ち着いてねむることはできないし、ねている人のよこではおもいっきりはたらけません。
あぁ、そういえば、あとひとつ、ちがうことがありました。
それは『日がのぼる国』と『日がしずむ国』ということです。
朝の国の方では、海からたいようがのぼりますので、それはそれはきれいに朝日が見えます。
夜の国の方では、海にたいようがしずみますので、それはそれはきれいに夕日が見えます。
朝日と夕日はにているようでまったくちがいます。
ですから、時たま旅行で国をまたぐときは海のちかくにとまって、その国のたいようをたのしむ人々が多いのでした。
私は、このふたつの国の人々はどちらもすてきだと思うのです。
さて、では、ふたつの国の人たちが私たちの世界を見たらどんなふうに思うのでしょう。
「おきる時間もねる時間も、やりたいこともちがう人たちがごちゃごちゃ?それはとてもたいへんそうだ!」
…なんて、言われるでしょうか?
「でも、好きな人と好きなたいようを選んで、同じところでいっしょに生きるのも悪くないかもね」
…なんて、言ってもらえるかも?
あなたはどっちの国の住人でしょう?
あの人はどっちの国の住人でしょう?
ここではない、わたしたちが行くことができない、そんな世界のおはなしです。
★タイトル『朝の国と、夜の国と、』 ★朗読時間:約6分 ★ひとこと: 寝れない夜に勢いで書きました。でも私は、断然夜の国の住人(笑)
夜の国の人ズルくない?って思う方いるかもしれないけど、そういう人もいなきゃいけないと私は思うんです。ちなみにこの物語で一番伝えたいと思っているのは『だから、ふたつの国の人たちはとても仲が良いのです。』という言葉です。同じことがわかちあえるならそれだけで。
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